本作は、ジャズ歌手であるエラ・フィッツジェラルドが残した、唯一の全曲ブルース作品集である。1963年10月28日と29日にニューヨークのA&Rスタジオで録音し、同年、MGMレコードよりリリースした。録音メンバーは、トランペット奏者のロイ・エルドリッジとオルガン奏者のワイルド・ビル・デイビスをフィーチャーし、エラ・フィッツジェラルドのヴォーカルを支えるのは、ギターのハーブ・エリス、ベースのレイ・ブラウン、ドラムスのガス・ジョンソンという編成。
ブルースの起源は諸説あるようでよく分からないが、奴隷としてアメリカへ来た黒人の労働歌や宗教歌、それがField Holler(フィールド・ハラー)や黒人霊歌へと分化あるいは相関し、西洋音楽の要素を吸収してブルースになったと思われる。こうしたRoots Music(民族音楽)としてのブルースは、20世紀初頭に広く知られるようになっていき、1920年にはブルース最初の録音となるMamie Smith「Crazy Blues」がふきこまれた。一方、ジャズもこれに先駆けて1917年にOriginal Dixieland Jass(Jazz) Bandが「Dixie Jass Band One Step」を吹き込んだ。
1920年代に盛り上がったブルースもやがて商業的には縮小し、1940年代から1950年代にかけて一部で再発見や再評価され、Helen Humes「See See Rider」(1946)が録音されたりしたが、大きな売上とはならなかった。寧ろ、1945年以降にチャーリー・パーカーがジャズのインストロメンタル曲として取り上げた事でブルースは再び脚光を浴びるようになった。 -Frederic Ramsey Jr.-
直上の引用文は本作品のレリーフの一部を訳したものである。よって、恐らくジャズ寄りのブルース評で、ブルースリスナーの目線からは大いなる異論があると思う。いずれにしても、エラ・フィッツジェラルドが本作で取り上げた曲は、全て、1920年代のブルース誕生間もない華やかなりし頃のヒットチューンである。
本作収録の「Jailhouse Blues」と「St. Louis Blues」は、ブルースの女王Bessie Smith(ベッシー・スミス)の録音でお馴染み。40年経って初期ブルースの新録に取り組んだエラ・フィッツジェラルドの心意気を楽しんで頂きたい。
01 | Jail House Blues | Bessie Smith; Clarence Williams |
02 | In The Evening (When The Sun Goes Down) | Leroy Carr |
03 | See, See Rider | Ma Rainey |
04 | You Don’t Know My Mind | Virginia Liston; Samuel Gray; Clarence Williams |
05 | Trouble In Mind | Richard M. Jones |
06 | How Long, How Long Blues | Leroy Carr |
07 | Cherry Red | Pete Johnson; Joe Turner |
08 | Down Hearted Blues | Alberta Hunter; Lovey Austin |
09 | St. Louis Blues | William Christopher Handy |
10 | Hear Me Talking To Ya | Louis Armstrong |
Roy Eldridge : trumpet
Wild Bill Davis : organ
Ella Fitzgerald : vocal
Herb Ellis : guitar
Ray Brown : bass
Gus Johnson: drums
- 1964
- MGM Records
- 829 536-2